White Album の感想

全体の感想

自分自身に遠距離恋愛破綻経験があるので,このゲームで言いたいことは感覚的にわかる気がしますし,共感できる部分も結構ありました. ただ,肝心の人間関係の設定と構成の練り込み,実際のゲーム中での演出や描写が全く足りないと思います. これじゃあ,テーマに共感できない人は,何か煮詰まったことをぐちゃぐちゃ言っているだけのゲームにしか思えないんじゃないかなあ.

それから,ゲーム全体を終わってもカタルシスがないのはちょっと不満. 由綺シナリオくらいは,この辺を考えてくれていても…と思います.

あと,Hシーンに入るところ,なんだかスムーズじゃない感じが目立ちます. 特に由綺と理奈. 由綺はヒロインなんだから,いきなり脱がなくても,扱いようがあると思わずにはいられません. 理奈の場合は,イメクラまがいな雰囲気がちょっと….

結論としては,私は,まあ,モトは取ったかなという気持ちですけれど(^_^; 無条件に人に勧められるゲームではないと思います.

ゲームのシステム

キャラクタ/シナリオ

森川由綺

話の筋がストレートすぎて物足りないです.

プレイヤーとしての私自身は,プレイ最初の状態で由綺を恋人と思っているわけではないので,冬弥が想いを貫くだけのシナリオでは感情移入できませんでした. (逆に,他の娘に浮気するときも罪悪感感じないですし.) 個人的には,弥生や英二のからみで紆余曲折を経てハッピーエンド…というのを期待していたんですが.

英二の行動はクリスマス(二人を逃してくれる)と音楽祭前の行動(由綺に告白)でギャップがあるし,弥生は脅し&誘惑をしてきて,それで終わり…. 二人がからんでこないならそれはそれでいいんですが,これが必ず発生するイベントだとすると,ちょっと煮え切らない感じです.

Hシーンではいきなり服を脱がれて,驚く(^_^; PS 版はここで別の展開に分岐するのでしょうか?

エンディングは,あまり盛り上がりませんね. というのも,シナリオのポイントが「二人の間に壁があるというのは思い込みで,本当はそんなものはないんだ」ということなのに,途中で発生するイベントは全て,二人の近さを感じさせる(=壁を感じさせない)ものだからでしょう. バレンタインに手作りチョコを渡してから日も経っていないのに,寂しさに負けて英二にキスしちゃった…ってのはねえ.

この辺は構成が良くないですよね.

由綺シナリオのクリアはわざと最後にしたんですが,これはやはり正解でした(^_^; 最初からこれだと,他のシナリオの時やる気が萎えちゃいますもん.

緒方理奈

作りにアラが目立ったお話でした. (他のシナリオのミスが今回のプレイでたまたま露呈した,というのも一部含んでますが.) イベント処理ではクリスマスの英二との対決の扱いも変ですし(「英二と食事」っていったい何なんだ〜),シナリオ面でも,大事なところで取って付けたような展開になってます.

特に,理奈が冬弥に惹かれる動機はともかく,(遅いクリスマスで)一線を越えるきっかけというか動機がちょっと不明. また,兄妹関係,特に理奈の兄への反発の理由がちょっと分かりませんでした. 結局,どうして理奈は兄のことを「あの男」とか言ったりしたのでしょうか? このあたり,かなりちぐはぐな感じです.

と文句を書いた後なのですが,お話としては結構好きです :-) というわけで,彼女について思ったことをば.

理奈については,次の2つの立場がポイントでしょう.

アイドルとしての自分
英二との関係が象徴している. 英二にプロデュースしてもらい,トップアイドルであり続けることは,現在の彼女のアイデンティティである. したがって,彼女が兄に見捨てられることとアイドルの地位を失うこととほぼ同義なので,反発しつつも結局は従わざるを得ない. (理奈の兄に対する反発の動機はいまいち分かりませんが,自分を束縛する芸能界自体への反発とも繋がっているのでしょうか?)
歳相応の女の子としての自分
冬弥との関係が象徴している. 普通の青年である冬弥は,芸能界に閉じ込められている彼女を,一般の人達の側に連れて行ってくれる存在. (彼女とのハッピーエンドの場合には,こちらの立場が選ばれるわけですね.)

ところが,どちらの立場にも強力な障害があります. それは,由綺の存在です.

由綺は,歌手としてプロデューサーの英二に気に入られ,女性としても英二個人に愛されます. そして,英二は歌手としても妹としても理奈を見限ってしまいます. (実際には,英二はそんなことは決してしないのでしょうが.) また,冬弥の彼女として,冬弥に向かう彼女の心の前に倫理的に立ち塞がります.

そして,行き先を失った理奈の心は…と,こういうのに私は弱いんですね(^_^; 冬弥も,彼女の辛さを知り,彼女の自分への想いに応えてしまった…てな感じでしょうか.

でも,エッチシーンは何か取ってつけたような感じなのは…. ノリが何だかイメクラっぽくて,かなりイヤ….

理奈と由綺の対決からエピローグに至る展開は良い感じです. ずっと冬弥が蚊帳の外だというのは,一見おかしく見えますが,私はこれこそが正解だと思います. 先に挙げた2つの立場から女の子としての自分を選び,そのように行動したのは理奈自身です. 逆に,冬弥は,物語の最初から最後まで,ひたすら理奈を受け入れ続けただけ. 自分の主体的な選択は何もしていないと言ってもいいでしょう.

ですから,最後に由綺と対決するのも,やはり理奈でなくてはならないわけです. ここで冬弥が出て行っても,どうせ「ごめん…」くらいしか言えないでしょうし(^_^; (そのあたりは喫茶店の会話のまんまですね.)

結局のところ,誉めてるんだか,けなしているんだかよく分からん文章になってしまいましたが,これはかなり好きなシナリオです. ただ,調理不足のところが多すぎなので,決して良い点はつけられませんね….

篠塚弥生

回数的には,彼女路線でのバッドエンドが一番多かったです. 結局,遭遇する回数の問題だったみたいですが…. ちなみに,成功したときも,会話モードでは絵の話はしてないまま,弥生イベントの喫茶店で「絵の話の続き」ということに…うーむ.

さて,このシナリオはなかなか良かったです. 全体のちょっと倒錯した感じがいいですね. エンディングでも,往生際の悪い弥生さんが泣かせてくれます. (音楽祭直前の駐車場のところが最後だと思ったのに ^_^;) 由綺を中心とする White Album というゲームの枠組への整合性も良いと思います.

シナリオ展開では,始めの方からレズっぽい描写があからさまだったのにだまされて,最後の「実は冬弥のことを好き」には(お約束なのに)裏をかかれました(^_^;; 一応言い訳しておくと,弥生がどうして冬弥に惹かれたのかがほとんど不明なのが悪いんです. そして,これは弥生シナリオへのほとんど唯一の不満でもあります.

というわけで,ここは自分でちょっと考えてみましたが,いい案が出ませんでした. 最初は「(弥生に追い込まれた結果としての)冬弥の孤独が,弥生自身の孤独にシンクロしてしまった」説を考えたのですが,これも何だかしっくりきません. 「冬弥には女装方面の才能があった」というもさすがに却下だろうし(^_^;;

うーむ. 仕方無いので,大幅に妄想を入れた「最初の彼のことが弥生の心の傷になっていた」説を暫定案として採用しておきます. (反論・ご意見お待ちしています.)

この案についてですが,弥生は実のところ,最初の彼を本当に好きだったのではないでしょうか? ゲーム中で弥生は,Hについては「何の感慨も無かった」と言ってますが,彼への想いそのものについては何も言ってません. また普通に考えても,あの弥生さんが(好きでもないのに)理由もなく体を許すということも考えにくいです.

結局,自分の不器用さのために好きな相手を傷つけてしまったことが,彼女のトラウマになっていたのではないでしょうか? (たぶん,初Hの後,そのままなんとなく別れてしまったものと予測されます.) そして,その結果,男性とは付き合えなくなった,と.

ところが,愛する由綺のため襲った(^_^;)冬弥の反応(=心が通わず寂しい)は,弥生の初Hの時の彼の反応と何だか似ています. さて,ここで,弥生は(たぶん)以前と同じように彼を傷つけたまま放っておくことができるでしょうか?

つまり,たとえ欺瞞であろうとも,冬弥を愛し,彼に愛されることは,弥生にとっての癒しに繋がるのです. このとき,冬弥は弥生にとって必要な存在になったというわけです.

冬弥は誰でも受け入れちゃうので,こっちについてはどうでもよし(^_^;;;

澤倉美咲

観咲さんって,お話なら好きなタイプなのですが,現実世界では苦手なタイプです(^_^; この人,悪く言えば千鶴さんもびっくりの偽善者ですよね…. シナリオとしては,その辺も含めた仕掛けがきっちりとしてあって,面白かったです.

シナリオ前半,学園祭でいきなりキスするシーンでは,「何でこんなところでいきなり泣き出すの?」とぶかしく思ったんですが,これは美咲さんの計算の上だったんですねぇ. 他にも彰の想いに気づかない(フリの)鈍いところとかも. いろいろ傷ついているようで,しっかりと手に入れるべきものは手に入れているあたり,やっぱり偽善者…. (ゲーム中に細かい描写は無いですが,由綺とも直接対決しているあたり,たいしたタマですよねぇ.)

実は(彰を除く)全員が人間関係を把握していたというあたりも,納得がゆく描写や展開があって良かったです. このゲームを通じて,女性陣には全く罪悪感を覚えなかった私ですが,彰には申し訳ないことをしたと思えましたし.

以上のような点で,このシナリオは,理奈を裏切る罪悪感や心の傷という面より,シナリオの作りの方が面白かったです.

ただ,会話モードの矛盾(シナリオ展開とキャラクタとの会話の内容がほとんど無関係)は,このシナリオが一番目立ちました. この点は,もうちょっとやりようがあると思います.

河島はるか

ちょっと散慢な感じのシナリオでした.

基本的には

  1. 兄の死を経て自分自身を壊してしまった,はるか
  2. 冬弥とはるかの,(かりそめの)兄妹のような関係
  3. 冬弥と由綺の別れ

の3つが軸になると思うのですが,イベント数の少なさのためか,はたまた文章量の制限のためか,いずれの扱いも中途半端です. 特に,White Album の枠組においては 3. は外せないと思うのですが,これについてはお粗末と言うしかありません. (音楽祭とその直後のエンディングでは,そもそも冬弥の考えに筋が通っていないんですけど….)

1., 2. についても,言わんとするところは分からないでもないですが,ちょっと消化不良な感じです. これらのテーマはどちらかに絞った方が良かったと思います.

それ以外にも,

あたりは,もう少し練りようがあるんじゃないかと思います.

結論としては,1., 2. で1つの話にはなるが,White Album の枠組の中では大風呂敷を広げすぎということでしょうか. 素材としては結構好きなんですけど….

ちなみに,はるかワールドはいいですねぇ. ただし,これがオリジナルの性格ならば. 自分を壊しちゃったはるかのことを,冬弥はいったいどう思っているんでしょうね. その辺を何も考えないえ,受け入れているとしか思えないのですが….

観月マナ

個人的な趣味では「こども仕様」の娘は苦手なんですが,この話はけっこう良かったです.

マナと冬弥はある意味,似たもの同士です. 親に構ってもらえない子供と,恋人に構ってもらえない男. というわけで,最初は似たもの同士の対称性が話の軸になると思っていたのですが,実際にはマナの冬弥への依存が中心でした.

由綺との対決も,当初は忙しくて冬弥を放っている由綺をマナが糾弾するといった展開を予想していたのですが,これも外れでした(^_^;; でも,マナの冬弥への依存だけを軸にすると,冬弥の側の心情がちょっと掴めないですよね…. {結局そこが理解できなかったので,愛しているとか,そういうセリフがちょっとしらじらしく見えました. この辺りが弱いせいか,エッチシーンへの導入もなんか無理っぽいです. ていうか,普通,そこでいきなり抱くか(冬弥調).

そして,エンディングは彼女の自立. ここは,なかなかぐっとくるものがありますね. 一歩引いて考えると,由綺がとっても可哀想な気がしますが,これはひとえに冬弥が人でなしだからでしょう(-_-;


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